住まい手さんは「建て替え」を決心されましたが、同時に「長く暮らした母屋の名残は残したい、一部だけでも古民家を引き継ぎたい」という思いも持っておられました。

設計の私としても、建替え案が予算内で実現しやすいと分かりつつ、この集落に風景として馴染んできた民家の面影は継承したいと考えていました。
建て替えるからには「前よりもよくなった」「でも以前の名残もあってうれしい」と喜んでいただけるような建て替えにしよう!そうしよう!と意を決してのぞみました。

建て替え後の外観は、元の母屋のような軒の深い切妻屋根とし、中央に大きな煙り出しのような塔屋を設けました。
塔屋の吹抜けで採光と通風を図りながら、昔ながらの大和棟を現代の生活にあうよう置き換えて、メンテしやすい勾配の屋根形状にした外観です。
周辺の地域の伝統的な家の外観を見ながら、違和感なく以前からここにずっとあったような形状にしました。
平屋らしく高さを抑えて落ち着いた外観にしています。


↑プレゼン模型。塔屋のあるシンプルな切妻屋根です。

母屋や離れで使える材料はできるだけ取り置きして再利用しました。
障子・ガラス戸・襖などの建具はほぼ再利用するため、家のモジュールや柱間隔を古建具にあわせて調整しています。


↑素敵なデザインのガラス障子。今では作られていないアンティークのガラスを使った雰囲気のある建具がたくさん使われていました。

元の家屋は京間がベースの寸法だったので、建て替え後の基本910㎜モジュールの柱割を適宜ずらすか、調整の200~300㎜の細い調整のモジュールを入れるなどしています。


↑基本設計の案。基本は910モジュールだが、京間の古建具の寸法を優先して、ところどころピッチをずらしたり、柱を芯ズレさせている。すべて京間のモジュールにすると、一般的な合板や石こうボードなど建材の定尺とずれて材料の割りが悪くなるので、あくまでも基本は経済的な910モジュール。

古材の梁は、解体時に取り出しやすい梁を選んで、よく見える場所に再利用しました。
たくさんの梁を残そうとすると手壊しの解体が多く発生し、解体費が膨れ上がるので予算を考えて取りやすい梁だけに限定しました。

↑玄関の上の松の梁と天井板は解体前に大工工事で外しやすく残すことができた。周りの建具や床板・框類もすべて再利用した。

他は、天井板・床板、上り框・床框・トコ板などで状態がよいものや、煤竹・持ち送り金物など古民家特有の部材もできるだけ取り置いて、再利用するべく採寸して設計時に盛り込みました。
取り置き時に、「これは劣化して使えない」「貼りモノなのでわざわざ使い回すほどの物ではない」などと判断して、再利用しなかったものもあります。


↑玄関の床板や框の生け捕り。強引に解体すると割れて使い物にならなかったりするので、丁寧に取り外していただいた。

古材の再利用は、設計にとっては少し手間が増えるぐらいですが、工事はとても手間がかかるので、古材利用に理解がある工務店さんと木工事の腕に長けた大工さんの力が必須です。
また、どの古材をどの寸法でどこに保管してるのか、どこに使い回すのか、密なやり取りや細やかな対応が必要になります。
住まい手さんは「特にこれはどうしても残してほしい」という希望をお持ちの時もあるので、ご家族みなさんから聞き取っておくことも要ります。(特に思い入れのあるご高齢の方など)
この古材の再利用や保存も、住まい手・設計・工事でちゃんとコミュニケーション取れてないと思わぬトラブルにつながります。

↑私は手書きのメモで何を残すか伝えていたのですが、上は工務店さんが作ってくださった「古材や古建具の取り置き一覧」。これが本当に助かりました。

今回の「山添の家」でも監督の和田さんと大工の渡辺さんに丁寧に対応いただいたのですが、再利用して出来あがったときには単なる新築では出せない使い込んだ風合いや趣があり、住まい手さんにも喜んでいただき、作り手も満足のいく出来になったように思います。

2023年04月18日    

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