「山添の家」が2023年3月に竣工しました。
25坪の平屋、古材や古建具などをたくさん再利用して建て替えた家です。
この建て替えに行きついた経緯は、長い話になりますが、とても大切な話なので書いておこうと思います。


↑建て替え後の「山添の家」南側の外観。
奥に集落の屋根が連続して見えており、昔ながらの風景にさりげなく馴染むような外観を意図している。


↑建て替え後の「山添の家」東側の外観。
平屋に一部吹抜けの塔屋を設けて光や風を取り入れつつ、全体の高さを抑えたシンプルな切妻屋根とした。

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最初にご相談いただいたのは一昨年2021年の6月。
奈良・山添村の大きな古民家のリフォームが予算内でできないか、一度見に来てほしいというご相談でした。

山間部の広い敷地に、平屋50坪の大きな古民家(母屋)と離れと蔵、別に古い水廻り棟、もう一つ築25年の2階建て住宅、とたくさんの棟が建っていました。
昔はこちらで家業をしたり複数の世帯が暮らしていたり、たくさんの人の生活があったわけですが、今はご夫婦と高齢のお母さんの三人暮らし。
ご夫婦ともに大変忙しいお仕事をされていて、お母さんはまだまだお元気で家の周辺で畑作業をされています。
現在は2階建て住宅で生活されていて、古い母屋・離れなど他の棟はほとんど使われていません。

ただし、母屋の和室の続き間は冠婚葬祭のときに必要なのですが、その母屋の傷みが激しく寒さが厳しいので、安全で快適な住宅にして、かつ生活しやすい平屋にしたいとのこと。
これらのご要望から、まずは古民家を調査し、構造や劣化の状態を判断して、改修や減築などの概案とかかる予算を出して方針を話し合う流れとしました。
古民家改修があまりに費用がかかるようだったら、小さな家に建て替えることも検討したいというお話でした。


↑調査をした古民家。
中央の屋根の大きな大和棟が母屋(40坪)で、右隣の入母屋が離れ(10坪)。
平屋の母屋は面積も大きかったが、とにかく屋根が大きくて、隣の2階建て住宅よりも高くそびえたっていた。
母屋・離れの裏は敷地ギリギリまで増築しているので、人の通れる隙間があまり残っていない。
母屋の手前に、屋根が崩落している古い水廻り棟が残っている。
普段は左手にある2階建て住宅で暮らしているため、母屋も離れもあまり使われていない状況だった。

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「古民家と周辺の状況」

母屋と離れと周辺敷地の調査は、仕事仲間の中で一番この分野に詳しい「仕立建築舎」の平賀さんにも来ていただき、近くの工務店の「なや建築工房」の和田さん・大工の渡辺さんにも見ていただきました。

まず、敷地の状況から行くと、母屋の東と南は広く開けていて光も入り風も通る環境でした。
一方で西側は裏山がすぐ迫り、山の木々が屋根に覆いかぶさり常に暗く、山の水が流れ込んで排水できておらず晴れた日もジメジメとしていました。
北側は母屋と離れが隙間なく隣接し、隣家との塀とも間がなく人が通ることもできないため、調査もメンテもできない状況になっていました。

敷地の全体的に雨水排水がどこに流れているか不明なところが多く、樋は途中で切れていて、屋根の排水も床下付近の土に放流されている状況でした。

また、こちらの土地は土石流による「土砂災害警戒区域」に含まれていて、裏山には土が流れて滑った跡もありました。
この山から流れてくる土と水にどう対応していくか重要な課題になります。

 


↑古い母屋の南側外観。西の裏山が近くに迫り、木々がうっそうとして屋根に覆いかぶさっていた。


↑母屋の北西角。西の裏山が茂り、常にジメジメしているために、湿気と屋根の重さに耐えきれずに梁や柱など構造が大きく歪んでひずんでいる。


↑常に湿ってコケむして撓んだ足固め。梁も同様の劣化状況だった。
雨樋は機能しておらず、屋根からの排水が土に垂れ流しになっていたのも湿気の一因だっただろう。

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「接道がない…⁈」

また、とても大きな話ですが、母屋と離れには接道がありませんでした。
道路の近くには2階建て住宅と蔵があり、その奥に母屋と離れがある状況のため、この2棟には車で近付くことができません。
工事車両や大型重機が近づけず工事に入りづらく、資材や解体材の搬出入が難しい状況でした。

これは、数年前に近接道路の整備で大幅にルートが変わり、車の進入口が移動したことで起こっていた問題でした。
接道がないということは、小運搬の費用や解体費などが普段より多くかかることが予想され、また工事車両の進入路を新たに作るのか、隣地を借りてレッカーなど使って資材搬入の方法があるかなど、検討が必要なことが多くありました。

一般的な住宅地のある都市計画区域内の敷地だと建築基準法により必ず接道の義務があり、また、一つの敷地にいくつも住宅を建てるということはできません。
しかし、こちらの「山添の家」のように山間部の都市計画区域外では接道がない敷地も多くあり、
また、敷地の手前に新たな建物を建てたことによって奥の建物の改修や解体ができない状況になっているケースが多くあるようです。


↑左から順に、母屋、2階建て住宅、蔵、通路、道路。
蔵の横の通路は軽トラで畑に近寄るので目いっぱい。ここから母屋に車で近付くことはできない。


周辺を確認したら、次はいよいよ建物調査です。(→次回に続く)

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2023年04月12日    

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