→前回からの続き)
周辺敷地の状況を確認したら、いざ内部の調査です。

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「古民家の劣化状況」

母屋と離れの調査結果ですが、建物の劣化状況は、屋外の条件と方角によって大きく違っていました。
開放的な東面・南面は比較的、健全な状況で腐朽・蟻害も多くはありませんでした。

一方で常に暗く湿った西面・北面は腐朽・蟻害が多く、劣化が酷いところは屋根の重みで梁が垂れ下がってしまい危険な状況でした。


↑西側の縁側。湿気で梁が劣化し撓んでいる。床板は抜けてしまったため合板で応急処置がしてある。


↑西側の部屋の窓台。シロアリに食われてボロボロになっている。この左手に水廻りの増築があり、その接続部から雨漏りも出ており、その影響で一層ひどい蟻害になっているようだ。

西の山水が流れ込んでいるのと屋根の雨水排水ができていないため、西側の床下が湿っていて床板や畳下地がブカブカして腐って脆くなっていました。


↑床下の土からの湿気で畳下地に腐朽・蟻害が出ている。板を持ち上げると脆く割れてしまう。

基礎はなく束石やブロックに柱が立っている構造で、建物の荷重がかかっている柱が沈み込み、床組や上部構造がかなり歪んで傾いていました。


↑手前が主屋で奥があとから増築されている。天井からは雨漏り、床はベコベコになっているので上から合板が載せてある。床・柱・梁のいずれも傾いており真っすぐ歩くことができない。

母屋の築年数は不明でしたが、何度も増築を繰り返してきた形跡があり、離れも隣接して増築されていましたが、それぞれの接続部で雨漏りが発生していました。
増築部や離れの瓦屋根は谷などの納まりが複雑でズレもあり、雨漏りの原因になっていました。


↑手前の母屋から奥の離れに続く縁側。東側なので比較的状態はいいが、母屋と離れの接続部の屋根からは雨漏りが出ている。昔はこの縁側もなかったようで左の和室の柱や鴨居が屋外で風雨にさらされていた痕跡がある。

母屋の小屋組みの内部は一部が又首構造になっていて劣化は少なくきれいでしたが、古い茅葺きを覆った屋根のスレートや板金は全体的に劣化や錆が進んでおり、10年以内に葺き替え、もしくは塗装をした方が良い状況でした。


↑下屋の瓦屋根はきれいでしたが、大屋根のスレートや板金瓦は劣化して寿命は越えている様子。

離れも母屋と同様、床周りが湿気で傷んでおり、もうひとつの古い水廻り棟は屋根が崩落していて調査で近付くのも憚られる状況になっていました。

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「当面の予算とライフサイクルコスト」

古民家のすぐ隣に、暮らすには十分の2階建て住宅が既にあるので、果たして古民家の改修にどれぐらいの予算を掛けるのか、敷地全体の整備にもどれぐらい費用がかかるのか、いろいろと考えておくべきことがありました。

今回のリフォームに必要な工事費や経費を見込むだけでなく、古民家の場合はこれからの維持管理にもコストがかかると想定しておく必要もあります。
例えば今回は予算的に屋根全体の改修が無理だったとして、その場合、10~15年後に屋根と足場だけで300~500万円ほどの出費が必要になることもありえます。

これから先の20~30年、終の棲家と生活の場をどうしていくかを考えて、どのタイミングでどれほどメンテに費用が要るか、何棟もある建物にかかる今後のコストを考えておくことも必要です。

母屋は伝統的な茅葺きの大和棟の民家ですので、地域の修景や社会的資産としてもこれを残したい、残すべきという考えもありますが、この急勾配の屋根は葺き替えの費用も多くかかります。
社会的資産として残すべきという考えであれば、その費用の負担を(労力も含め)住まい手だけに負わせるのは酷だと私は思います。
しかし山間部の自治体にそんな財政の余裕は無いわけで、伝統的家屋の保存として国が補助金を出すならまだしも、個人資産の老朽化した家屋を「住民が金銭的に無理してでも保存・維持管理に努めるべきだ」とは思えません。

当然ですが住まい手の予算と今後の暮らし方を聞き取りながら、保存ありきではなく、改修なのか建て替えなのか色んな案を具体的に出しながら見定めていくべきと考えていました。


↑左から順に、蔵、2階建て住宅、古い水廻り棟、母屋、離れ。

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「これからの暮らし方とメンテナンス」

敷地にある建物は5棟。
平屋の母屋(40坪)・離れ(10坪)・別の水廻り棟(3坪)・蔵(6坪)・2階建て住宅(40坪)。
この全ての棟を改修して残していくことがベストの答えなのか、いろんな視点で考えていく必要があります。

これからここに暮らす人数は3人。
帰省でお子さんたちが戻ることはありますが、普段は高齢者とご夫妻の生活で、しかもそれぞれ多忙なお仕事があり、家の維持管理に十分に時間を割くことは難しい毎日です。

一方で、多数の家屋や広い敷地を手入れしながら暮らすというのも、実に手がかかることです。
この2年近くこの地で日々の暮らしを拝見していると、やるべきことがたくさんあることがよく分かります。

敷地の草刈り、落ち葉掃きや裏山の伐採などの手入れ、家屋の掃除、雨漏りやシロアリの点検、傷んだところの修理や再塗装、樋の点検、土が溜まった溝の掃除などなど。
メンテに費用がかかることはもちろん、古民家は特に住まい手のこまめなお世話や目配りがどうしても必要です。
これらを怠って放っておくと途端に家が傷んでいきます。
使われていない家屋は物置になりがちで足を踏み入れるのも難しくなり、家の点検ができずに更に家が傷むという悪循環になります。

田舎暮らしで農作業やカフェをしながら古民家を上手に活用されている方もおられますが、その場合は暮らしも仕事もひとところで職住同一でまとめて、かつメンテできる人手があって初めて成り立つ生活だと思います。

今回の数も多くて大きい民家すべてを、住人だけで維持管理し続けていくのは困難です。
手に余った家々をどこまで残してどこまで活用するか。
解体処分するべきものを放置して朽ちていくのは危険ですが、近隣にはそんな民家も数多く見られます。
集落の人口減少と高齢化によりメンテの手が回らないのが実情だと思います。

空家の解体費に村の補助金もあるものの、誰も住んでいない空家に限定されていましたので、今回の「山添の家」の解体は残念ながら対象外でした。

減築して手に負える大きさになると、メンテも苦しくなく休日の趣味のように楽しんで続けることも可能になります。
無理なく家を可愛がっていける規模にしていくことも長く暮らすことに大切なことだと考えます。

2023年04月14日    

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