山間部に建っていた大きな古民家を解体し、その古材や古建具などをたくさん再利用してコンパクトに建て替えた住まいです。
こちらはリフォームするか建て替えるかで検討を繰り返しましたが、古民家の劣化が進んでいたことと、今後のメンテの負担が重いこと、そして裏山からの土砂災害を避けることを考え、山から少し距離をとって建て替えることになりました。
集落に風景として馴染んできた民家の面影や大和棟のイメージは継承しようと、軒の深い切妻屋根とし、中央に煙り出しのような塔屋を設けています。
また、古材の梁や古い板・框、古建具、煤竹、金物など、いろんな思い出深い材料をできるだけ取り置きして再利用するように盛り込んでいます。
「山添の家」は高齢のお母さんとご夫婦が暮らされますので、高齢者にも介護者にも暮らしやすいよう、動線をシンプルにして無駄な移動を減らすようにしています。
どこも行き止まりがなくグルグルと回遊できて、2wayの部屋が多く、内と外とのつながりもよいプランです。
特に、畑~作業場~お母さんの部屋への行き来がしやすく、お母さんの部屋とトイレは隣あわせで、さらにトイレ・洗面・物干し・キッチンの動線もスムーズです。
また、ご近所との付き合いを大切にする地域性や集落での暮らし方にあわせ、続き間と縁側をリビングとつなげたり、玄関に応接スペースを設けるなど、伝統的な間取りと現代的な使いやすさをあわせたプランにしました。
もともと子世帯が暮らしていた別棟が隣にあるので、こちらの母屋は建築費を抑えるためにも、延床面積25坪とコンパクトにまとめた平屋になりました。
暮らしやすく、手入れや点検が行き届きやすいサイズです。
冬寒い地域なので、床下エアコンを設置し、高齢者がいつも利用するLDKと水廻りと寝室は24時間、常に暖かく、かつ光熱費を抑える暖房計画をしています。
古材以外は、奈良の吉野杉を中心に、国産の唐松・杉・タモ、珪藻土や白洲そとん壁など左官材など自然素材を多く使っています。一部、タバコを吸う部屋の壁や汚れやすい水廻りの床などには、掃除しやすいクロスやシートを使っています。
工務店さんと大工さんには古材の保管や手間のかかる加工を丁寧にしていただきました。また、自然塗料の塗装やタイル貼りなどには、住まい手さんと設計者がDIYやメンテナンスの練習も兼ねて一緒に工事に参加しました。
新築住宅
所在地/奈良県山辺郡山添村
構造/木造平屋建て
延床面積 /83.00㎡ (25.10坪)
設計/暮らしの設計ツキノオト/船木絵里子
構造サポート/かたつむり構造/藤本千絵
温熱アドバイス/水の葉設計社/中野弘嗣
施工/なや建築工房
東側外観。軒の高さを抑えた平屋で、一部を越屋根にして光や風を取り入れるとともに、周辺の和風家屋とあわせ修景しています。
南側外観。建て替え前の大和棟のように切妻屋根を重ねて、妻壁(高塀)のハイサイド窓から光を入れています。
西に迫っていた山から離して、東に寄せて配置しています。
玄関ポーチは畑や道路からアプローチしやすい南東角にして、その奥には農作物の仕分けに使えるポリカ屋根付きの作業場を設けています。
解体した茅葺き屋根の煤竹を組んで目隠しのスクリーンにしています。東側の軒は昔の家の出桁造りを再現していて、雨や雪の日でも軒下を行き来できる深さにしています。
持ち送り金物は古家で使っていたものの錆を落として再塗装して使い回しました。赤松の登り梁は同じく古家から再利用し、亜麻仁油を塗って飴色にしています。
南面の光溢れる明るい玄関。
ご近所さんとゆっくり話ができる応接コーナーにもなる広いスペースです。
中央のタモの八角柱は、靴の脱ぎ掃きや上り下りのときの手摺になります。
手摺と十字に組んだ鴨居は暖簾掛けとして使えます。
玄関の正面にはリビングがあり、応接コーナーの奥には寝室1の入口があります。
天井板、煤竹、床板、上り框、応接のベンチ、ガラス引戸、舞良戸、さらにテーブルのスチール脚も、すべて以前の古家から取り置きした材料を再利用しました。
高齢のお母さんの寝室1は南向きの一番日当たりのよい場所で、テラス窓から屋根付きのデッキと作業場と直接出入りできます。寝室1は西側の物干しへの出入口もあります。
トイレは寝室1のすぐ隣に設け、廊下やDK側からも入れるように出入口の引戸を左右に付けています。トイレ奥の洗面との間の壁はあとで外せる間仕切りにして、もしも車いすの生活になっても改造して広く使えるようにしています。
トイレの入口の収納付きカウンターは、桧の巾ハギ板にガラス塗料を塗っています。腰壁のモザイクタイルはDIYで住まい手さんと一緒に貼りました。
床下エアコンの吹き出し口をトイレや洗面にも設け、冬場にもとても暖かい水廻りになっています。古材の杉梁は亜麻仁油を塗って深い色にしました。
洗面はトイレのすぐ隣で、2つの寝室やキッチンからもアクセスしやすい位置にしました。
洗面・浴室・物干しが凸状にとび出た間取りのため、南からの陽がさんさんと入り、風が通り抜け、水気が素早く乾きやすい水廻りにしています。
写真の左奥が物干し。デッキにポリカの屋根を掛けた、日当たりのよい物干しです。
洗面と寝室とつながっています。
こちらの地域では今も冠婚葬祭に和室の続き間を使うため、いちばん眺めの良い東向きに開放的な6帖二間を並べています。天井板は奈良県産材の赤身の杉板です。柱や梁、造作材もすべて、ほぼ赤身の濃い吉野杉です。
障子を閉めると落ち着いた雰囲気になります。障子や襖はすべて古建具を再利用し、内法を高くするため上下の框に木枠を打ち足し調整しています。欄間は住まい手さんのお気に入りを支給いただきました。
洞床の床柱は、古い床框を柱に仕立て直していただきました。床板も以前の床の間からの再利用です。奥の壁には常に換気できる小窓を付けています。
横の仏間はお持ちの仏壇がピッタリ収まるように造りました。
リビングも東向きに開放し、LDKと和室と縁側を一体で使えるレイアウトにしています。床は国産唐松の板、天井は日田杉の白太に柿渋で着色して赤身の板に色をあわせています。
LDKの上を吹抜けにして南・北・東のハイサイド窓から光と風を取り込んでいます。リビング周りの梁は吉野杉の赤身の節無しで揃えてもらいました。無節の美しいものを挽いてもらうために、見せ場の梁はあえてw150の巾広にしています。
和室は寝室2と一体で使うこともできて、キッチン横なので茶の間としても使えます。
LDKは東向きのため、午後から南の光が入るように玄関との間にガラス戸やガラス窓を多く使い、明るさが漏れるようにしています。胴差には古い梁を使っています。
キッチンの奥に廊下・トイレ・洗面があり、その上はロフト(小屋裏収納)にして、たくさんの蔵書の置場になっています。無節の赤身の杉の梁は美しく、古材の褐色の杉の胴差はいい味出しています。キッチン背板やロフトの腰板は熊野の杉パネルです。